うたをよむなり。

ねずみです。あちこちで詠んでる詩歌のたぐいをまとめようとおもいました。

題詠み短歌 2023年

連れ立ってキャリー片手にゆりかもめ煩悩よりも多い欲望
2023年12月30日『連』

誰そ彼と問う人もなく北陸のはまべで消える夕日を看取る
2023年12月29日『誰』

白雪に双子の天使もう二度とやってこないねアルバムが言う
2023年12月26日『雪』

階下から怒声グラスの割れる音サンタは来ない今夜も来ない
2023年12月24日『イブ』

徒人(ただびと)の日々を過ごして二十年ネオンピンクの棺桶を買う
2023年12月05日『徒』

まっすぐに回れないのだ独楽だって優しくふれる指がなければ
2023年11月28日『軸』

少年が映す海わたりの蝶と映さなかった朽ち行く蛹
2023年11月15日『少年/少女』

自由などいらないかつて手に入れた恋のひかりと心中するの
2023年11月10日『自由詠』

出棺を見送る蓋を開けてないから君はまだ生きているかも
2023年11月09日『出』

骨壺に首輪をはめる新しい家にも迷わず帰れるように
2023年11月08日『首輪』

金よりもほしいと乞うた愛さえもいずれいらなくなるのだろうか
2023年11月06日『金』

傷痕は残るでしょうかきんいろの第二ボタンのない胸元に
2023年11月04日『残』

ひとひらも渡したくない制服で笑う写真のなかのあなたを
2023年11月03日『あなた』

帰宅する日は来ないとも言わぬまま海の向こうへ飛んだ隼
2023年10月16日『機』

ビー玉も虹も見えない弾かれたラムネボトルが鳴る低い音
2023年10月13日『ラムネ』

飛ぶ羽を人は持たない国境を越える線路を染める血涙
2023年10月12日『飛』

何者にも阿らないで強くなれ摘まれ続けるシソに語りき
2023年09月20日『阿』

待っていた九十九年の蜜月を今一度手に取り戻すため
2023年09月12日『待』

新しい出来事もなく蝋燭は日々燃えてゆく満員電車
2023年09月05日『毎』

梨のあおをりんごの子だと思ってた稼ぐ苦労も知らずいた頃
2023年09月01日『梨』

顔出しが必須と言われ背景をPC前の自分にしてる
2023年08月24日『リモート』

成仏を願う心と虹の根で再会したい心のあいだ
2023年08月22日『仏』

実際はブレーキ小回り利くらしい猛進だけの僕と違って
2023年08月21日『猪』

転がったペンから恋が始まった未来を夢見ているだけの今日
2023年08月18日『きっかけ』

月面のゆめをアポロが打ちこわし帰る屋敷のないかぐや姫
2023年08月17日『宇宙』

向日葵に似た人だった項垂れる姿を夜に隠して笑う
2023年08月07日『ヒマワリ』

おっぱいがはみ出している腹を撫でる野良よお前はひとりじゃないな
2023年08月03日『おっぱい』

晴れ上がる真夏のような人だった過ぎればうつくしさのみ思い出す
2023年07月26日『夏』

ごつごつの手の熱をまだ覚えてる煙も出ない煙突の先
2023年06月26日『手』

変数を&で繋ぐ過ぎた日を忘れられずに増えていく恋
2023年06月09日『&』

しゃぼんだま屋根まで飛べと歌う子の声だけ遊びに来てる寝室
2023年06月05日『声』

優の字がほしかったんだ丸つけもしてもらえない自習プリント
2023年05月30日『優』

過去のまま進まない家 柱キズ、大好物はカレー(甘口)
2023年05月23日『大好』

合同を証明できる世界では平行線は平行のまま
2023年05月22日『同』

仮留めをしたまま五年結婚も別れもちがうような癒着だ
2023年05月19日『糸』

白く歯をのぞかせている折り鶴が見下ろしている シーツは白い
2023年05月18日『折り紙』

幸せと訊けばさえずる雄雲雀風切り羽根を切られたままの
2023年05月17日『羽』

おいしいはおいしいを呼ぶ食事どき人語を話す猫がまた増え
2023年05月09日『おいしい』

何回のあのねを埋めてきたのだろう別れ話のはじまりの音
2023年05月02日『あの』

カレーにはしめじを入れる常識が崩れた夜に見上ぐ星空
2023年05月01日『カレー』

成長をなかったことにされ今日も韮を刈り取りお浸しにする
2023年04月30日『韮』

鼈甲の眼鏡はいつもゆっくりと絵本を読み上げる声と在り
2023年04月28日『甲』

菜の花が背負う十字を花が咲き取り残されたダイコンが継ぐ
2023年04月26日『菜の花』

真夜中に鶯が鳴く下手くそなギターに勇気づけられて
2023年04月25日『鶯』

虹色のビー玉ひとつ初恋の味と一緒に閉じ込めている
2023年04月24日『ビー玉』

すべらかな饅頭ふたつもみじ手の37℃が蒸し上げている
2023年04月21日『饅頭』

溺れてもいいと手を伸ばしていた頃の熱量もなく五年目の恋
2023年04月19日『溺』

ボウフラを喰いつつ今も生きている祖母の遺した鉢のメダカら
2023年04月18日『ボウフラ』

ステージの夢を吹き込む放課後のトランペットは放屁で笑う
2023年04月17日『ラッパ』

辛の字も一本足せばと言う人に戸惑う生まれながらの幸だ
2023年04月11日『幸』

三年は粘れと言うが石の上に種を蒔いても根付かないので
2023年04月06日『一年生へ送る一首』

東京の入学式も雪が降る道産子たちに桜は怯え
2023年03月24日『季節外れ』

治らない心の穴を愛おしく思わんネコの形の穴を
2023年03月18日『治』

幸福な生活 妻と子が2人家と車があるから、それで?
2023年03月11日『福』

自由であれと言われるほど不自由ヒトは世界を枠組みで見る
2023年03月10日『超自由詠』

待ち侘びたひとの名を呼ぶきみはもう十月十日も愛されている
2023年03月06日『侘/寂』

0点の評価見えない10を足すわたしはきょうもがんばりました
2023年03月02日『零』

他愛ないお喋りだったベッドから見上げる祖母に思い出すのは
2023年02月28日『喋』

ふつふつと呟く鍋とふたりきりアクを抜かれて楽になりたい
2023年02月22日『温』

節つけていとしよいこと繰り返す子守唄だけ耳に残って
2023年02月21日『いとし/こいし』

就活のポスター通り黒染めとスーツに落ちる一人また一人
2023年02月20日『秩序』

愚かだと言いたくば言え黒板の文字が恋したきっかけなんて
2023年02月19日『愚』

財宝の振りを続けて二十年はげる鍍金もなくただの人
2023年02月16日『金』

アネモネ花言葉まで知っている黙って一輪挿しに活けつつ
2023年02月15日『アネモネ

勇敢と蛮勇の差を知っている知恵と良き友、地位、金、生まれ
2023年02月14日『勇』

霞む日が来るのだろうか舞浜で繋いだ皺だらけの手のこと
2023年02月13日『舞』

散骨は沖縄がいい唯一のマリンスノーになる夢を見る
2023年02月12日『マリンスノー』

自由とは何者かにはなれないと諦めることみぞれが落ちる
2023年02月10日『自由詠』

贅肉が増えていきます愛せない重さと笑う母の一声
2023年02月09日『肉』

十年が解凍される本棚の陰で見つけたピーちゃんの羽根
2023年02月08日『羽』

2秒しか保たずに消えるあまい香は勿忘草と名をつけられて
2023年02月06日『勿』

過去形にingを付けるような恋カバンに忍ばせていた手袋
2023年02月05日『ing』

いつ来ても古巣に待っていてくれた練習室のピアノは消えて
2023年02月04日『巣』

初雪と駆け出した子を抱きとめるみぞれ混じりの雨を見上げて
2023年02月01日『霙』

手袋をポケットに入れ君からの寒くないのを待ってる右手
2023年01月25日『寒くない』

パパとした内緒話を耳元でナイショと教えてくれる四歳
2023年01月24日『ない』

明日こそ会えるだろうかお土産の生キャラメルは喉に張りつく
2023年01月23日『生』

ヒルにもプライドはあるスプレーで吹いたインクを弾く白羽根
2023年01月20日『羽』

鈍行の恋です同じホームで乗り込んで一駅先に降りるみたいな
2023年01月19日『鈍』

街灯に集まる蛾より本能に支配されてる午前一時に
2023年01月14日『蛾』

来年は赤ちゃんちゃんこの私にも忘れたくない放課後がある
2023年01月13日『にも』

ポチという名前になったメモ用紙3枚ぶんの候補に勝って
2023年01月11日『犬』

大空を舞うのも自由鳥籠で飼われて生きていくこともまた
2023年01月10日『自由詠』

水槽で飼うはずだった思惑は外れ朝日に死んだ水月
2023年01月06日『思』

始まりは一枚のキス夕暮れの音楽室にふさわしくない
2023年01月05日『始』

運だけはあります君と巡り合い暮らせているのが証拠ですから
2023年01月04日『運』

訥々とみそひともじを繰り返し言の葉色に川を染めたし
2023年01月01日『令和五年の抱負』

題詠み短歌 2022年

サークルでみそじのあだ名を持つ友が今年四十になると笑う日
2022年12月30日『みそ』

好きだとは言えなかったの願掛けの結果も知らずさよなら椿
2022年12月28日『お疲れ様』

だるく履く靴下文化は死にましたソックタッチを道連れにして
2022年12月25日『ルーズソックス』

明日にまだ捕まらぬよう祈ってるロフトベッドの机の下で
2022年12月23日『ロフト』

契約を交わしたように一日も途切れなく置かれる猫の土産
2022年12月14日『契約』

串カツのタレを二度付けする人だそれでも別れようと言えない
2022年12月13日『串カツ』

イチゴなら栃木ハクサイなら群馬 恋人ならどっちとは聞けずに
2022年12月09日『群馬/栃木』

金ピカの星をもらったツリーだけ変わらないのは サンタはいない
2022年12月01日『冬』

しんどいと言い合うことでしんどさを捨てる努力をしているんです
2022年10月07日『しんど』

泣けぬ子の代わりに泣くというのなら台風くらい荒れろ 失恋
2022年10月06日『秋雨』

ちゃんと起きちゃんと学んで来た道を一夜で恋に踏み外してる
2022年10月01日『ちゃん』

月のある時間は春と変わらねど空見上ぐ日が増えて長月
2022年09月30日『長月』

醒めるほど酔ってないから寂しくもない言い聞かせ捨てる歯ブラシ
2022年09月22日『醒』

初恋にさえ正しさがあるらしいハツコイ味といばるレモンティー
2022年09月20日『恋』

絵日記に書かれもしない夏空を向日葵だけが見送っている
2022年08月25日『夏』

夕暮れの気配どんぶりいっぱいの氷はひとすくいの水になり
2022年08月19日『かき氷』

黒蜜と黒酢が置かれ食卓は統一しないことも文化だ
2022年08月17日『心太』

紅玉に砂糖をまぶすそのままを愛してあげられなくてごめんね
2022年08月16日『林檎』

三年を無駄と吐き捨て消えた人雨に打たれるベランダの鉢
2022年08月04日『スコール』

リズムよくパイナップルと跳んでいくチョキを出さない兄を後ろに
2022年07月25日『パー』

カラオケの履歴に湘南の風並ぶおまえも町を出て行きたいか
2022年07月20日『湘南』

東京も奈良も京都も神様は等しくいない十月になる
2022年07月11日『なら』

ワレワレハエイリアンダを知らぬ子の知る扇風機には羽根がない
2022年07月05日『扇風機』

FMが聞けるラジオが100均で売ってたスマホがなかった時代
2022年07月04日『FM』

好きだよと言うだけ返事はなくていい私を意識するだけでいい
2022年06月22日『呪術』

夏至の日の太陽のよう見るときが長くなるほど僕から遠い
2022年06月21日『夏至

艶やかを芍薬に見る人の手で蜜を拭うて咲かせる花だ
2022年06月20日『やか』

先陣を切って踏み込む銭湯のいつもの席を占拠する祖父
2022年06月17日『「せん」を三回詠み込んで』

バス停ですれ違うだけ初恋と呼ぶことはない呼ぶことはない
2022年06月14日『バス』

飛ぶ鳥の自由気ままに憧れた休む巣のない意味を知らずに
2022年06月10日『自由詠』

8mmのディスクを捨てられずにいるウォークマンはもう持ってない
2022年06月09日『CD』

地獄とはひどいものかね痛いことを痛いと言っても叩かれない場所なのに
2022年06月08日『獄』

コンビニのお握りを呑むお向かいでだし巻き卵が輝いている
2022年05月26日『弁当』

ばあちゃんの味と呼んでたヤクルトを自販機で買う深夜三時だ
2022年05月25日『ヤクルト』

子どもらは巣立ちましたね空になった巣で羽繕いする夫婦がふたつ
2022年05月23日『巣』

薬液がぽたぽた落ちる慰めの嘘を聞くより気は楽になる
2022年05月19日『点滴』

藁しべに時代は戻り木を切って作った紙のストローを噛む
2022年05月18日『ストロー』

堂々と頭を上げる麦の穂を折れろ折れろと刈り取っていく
2022年05月17日『麦』

みどりごの玩具のようなもみじ手に小さく爪の生え揃ひたり
2022年05月16日『緑』

教室に並ぶ手書きの幸いに混ざる辛いは声も上げずに
2022年05月12日『足りない』

真っ白な花咲くというサボテンの横で日に日に丸くなる猫
2022年05月11日『サボテン』

行き先も決めない自由クラゲには舵を取る手も足もないので
2022年05月10日『自由詠』

黄金に神は宿るか人の血を浴びて曇らぬ鉱物たちは
2022年05月09日『黄』

「このやろう」まで打ち込んで変換を押せば大人の「承知しました」
2022年05月08日『承』

西へ行く理由も忘れあやかしは少年たちと戯れている
2022年05月06日『西』

出迎えは春風ひとつ人に溢れ人の目のない東京のまち
2022年04月28日『春風』

飲むように活字をなめる子は今夜ナルニア国で遊ぶのだろう
2022年04月27日『飲』

祖母と繰るアルバムしわしわの指が撫でる私と似た目の少女
2022年04月25日『婆』

溝の口駅からひとつ君と行くコーヒーだけが絶品の店
2022年04月22日『溝』

上野から常磐線で実家まで取手は下ですかそうですか
2022年04月21日『下』

何歳と聞かれるたびにさんさいと笑いカメラにピースをする子
2022年04月20日『さん』

淡々と和音を鳴らす相槌はメトロノームのテンポを保ち
2022年04月19日『和音』

「母さんも留守です」電話取りながら仮面ライダー見てる日曜
2022年04月18日『留守』

15時のヤクルト1000と青色を今日のログインボーナスとする
2022年04月17日『ヤクルト』

新しいカフェを見つけた公園の桜が咲いただから会おうよ
2022年04月16日『だから』

浴槽のあひると二人シャンプーに挑戦してる息子を見守る
2022年04月15日『浴』

十年後懐かしめればそれでいい制服たちもひどい喧嘩も
2022年04月14日『制服』

保育料ほしいぐらいに雷の子が腹を蹴る夏の夕暮れ
2022年04月13日『腹痛』

底なしに食べ続けてる鯉のよう会うたび好きをねだる私は
2022年04月12日『鯉』

10kg(キロ)と公園へゆく晴れの日は行きはよいよい帰りは重い
2022年04月11日『腰痛』

南国へ飛べば燕も凍えまい鉛の心臓ひとつ残して
2022年04月10日『自由詠』

最後まで渡せなかった返信を書いては消して書いては消して
2022年04月09日『レター』

子を忘れ家を忘れて好きだったおはぎを捨てる祖母だった人
2022年04月08日『忘』

大空に飛ぶため生まれ変わるのだもみじ手の上眠るさなぎは
2022年04月07日『蛹』

遠くまで散る花びらに隠されて明日うまれるみどりは眠る
2022年04月06日『芽』

大雨が降る日はわかる竹刀振る日々が解凍されるにおいで
2022年04月05日『剣道』

幕の内弁当だって底上げをされる時代のぼくの履歴書
2022年04月04日『幕』

歯ブラシも茶碗も持っていったのに置いていかれた花瓶と私
2022年04月03日『置』

加熱する手間を惜しまれ傷心のクリームブリュレはプリンになった
2022年03月26日『加』

一杯の茶を飲む時間一年と二か月ぶりの一人の時間
2022年03月25日『茶』

真冬にも凍ることなく使う人のいないラー油は庫内にひとり
2022年03月19日『辣油』

あぜ道にマリーゴールド植える祖父おまえに摘ますためと言いつつ
2022年03月16日『マリーゴールド

赤さびた線路を夢に見る朝だ車に乗れなくなったあの日を
2022年03月15日『駅舎』

飛び込んだウサギの穴の向こうがわ背中を撫でる手があればいい
2022年03月13日『兎』

飛ぶ鳥も泳ぐ魚も泣きさけぶ赤子もみんな不自由にいる
2022年03月10日『自由詠』

サンキューとこれ見よがしに言う父の声が年々遠くなりゆく
2022年03月09日『3月9日』

止まらない落花ゴミ袋に溜まる10年分の写真と日記
2022年03月07日『止』

三月に間に合ったよと綻んだ桃の蕾をカメラがほめる
2022年03月03日『桃』

階段の先は見えない点々とホコリの上に残る足跡
2022年02月26日『階段』

壁越しに長いシャワーの音を聞く午前一時の大浴場で
2022年02月24日『温泉』

順番に鬼になるのだ下駄箱の枯れ葉机の奥の食パン
2022年02月21日『番』

相槌を繰り返すより雄弁に「またね」「またね」を言い交わした日
2022年02月20日『ね』

濁色も味と笑っている人の暗いところのない生い立ちだ
2022年02月16日『濁色』

ハマグリもアサリも春を望まない桃の節句を人ばかり待つ
2022年02月14日『泥』

昨日まで親友だった三毛猫も他人みたいに鯵を食べてて
2022年02月11日『商店街』

兵士なら優秀だった少年が子守りとあそぶ日々の尊し
2022年02月08日『野比のび太

ふかふかのホットケーキもブランドの服も勝てないつないだ手には
2022年02月04日『掌』

豆まきはさせてくれないママはいつも鬼が来るのを待っているから
2022年02月03日『鬼』

病院の待合室で辿ってる出口を作り忘れた迷路
2022年01月31日『出』

便箋を引き裂いていくマッチでも見られぬ夢の葬式として
2022年01月27日『マッチ』

色づいた牡丹のような人でした崩れゆくのも一瞬でした
2022年01月26日『牡丹』

喫みかたも味も知らないマルボロを一箱ずっと捨てられずいる
2022年01月21日『好きな煙草』

孫の名を忘れた祖父の白髪は記憶のままに切り揃えられ
2022年01月19日『白』

一回は言えばよかった好きだってもう食べれないいつものカレー
2022年01月17日『好』

五線譜を辿る指先ピアノには話せるあまい空色の音
2022年01月15日『譜』

黒船をおぼえているか夕焼けに横浜港は赤く染まりて
2022年01月14日『港』

かまくらに入りたかった滑り台に腰掛けている雪だるまたち
2022年01月12日『滑』

振り上げた拳を映す黒い目はあそびと疑いもせず尾を振り
2022年01月11日『犬』

本能で海ゆく蝶を竹かごのうちから見上げさえずる小鳥
2022年01月10日『自由詠』

車窓からひとり眺める六本木は聞いていたほど眩しくもなく
2022年01月07日『昨日の題からどれでも』

「みずつき12」提出連作+セルフ推敲SOML連作

「水」をテーマに6首連作する短歌企画「みずつき」に参加しました。どの歌にも液体のモチーフを入れたつもり。

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く 遺言は川に沈んだ愚痴ひとつ言わずにゆるす人だったから 自惚れた悔悟だろうか酒を飲む約束をしていればだなんて 読む人のいない手紙は止めどきのないまま紙にインクが滲む 最後にと握った肌の感触も消毒液に上書きされた 朝焼けに泣き出す前の曇天の背なを天使の梯子が照らす

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く
遺言は川に沈んだ愚痴ひとつ言わずにゆるす人だったから
自惚れた悔悟だろうか酒を飲む約束をしていればだなんて
読む人のいない手紙は止めどきのないまま紙にインクが滲む
最後にと握った肌の感触も消毒液に上書きされた
朝焼けに泣き出す前の曇天の背なを天使の梯子が照らす

「水に流れて」

……ええと、6首目だけ説明足していい?

天使の梯子」、気象としては薄明光線と呼ばれる大気光象のひとつです。厚い雲の切れ間から斜めに差し込んだ光が大気中の細かな水滴で散乱する、チンダル現象によるもの……いや、言葉上の定義はいいか。

つまりね。天使の梯子が見られやすいのは
・厚い雲の層がある
・大気中に細かな水滴がたくさんある(雨の前後になりやすい)
・太陽が低い位置から差し込んでいる(朝方や夕方)
という空模様なのですね。

1首目で「涙もなしに」を出したので、最後は泣き出す前の空にしたら対比になるかなって思って。ちゃんと対比にするなら涙の見える情景が良しなんだけど、空に泣かれて雨になっちゃうと天使の梯子がかからないので……。
その情景を目にした主体が涙したかどうかはわからんけど、まあ前を向いてくれたらいいなって思いました。気持ちが前に向いた後の1首入れるのが構成としてはベターなのかもしれないけど、目に綺麗な景色でとじるのもいいかなって……そういうのが好みなんです。はい。


と、ここまでが表書きです。ここから「わたしはSOMLの連想で詠んだ歌を企画に提出しました」の札を首にかけます。

水と言えば死だよね! という着想で提出するおかげで昨年も今年もひとりテーマがド暗くなりました。民話と神話とSHで育ったので完全に「水=死と輪廻」の概念が形成されてしまっていて……。そしてSOMLのイメージが水なんですよね私ね……。ただしく言うと流れる川のイメージ*1なんだけど。

言葉の舌ざわりだけで詠むので連作だと主体が見えず詰まりがちなのが常なところ、困ったらトーマスのほう見ればよいのは大変編みやすかったです。その結果編みあがったのがこれ(👆)なのは、意識して演目からシチュを離したとはいえちょっとごめんと思わなくもない。特に2首目。すごい楽しかった。

連作の中でモストお気に入りは3首目です。自分は何かできたんじゃないか、時間を心を割いていれば違う道を選んでくれていたのではないか。遺された者の切実でかわいらしい傲慢だと思う。他の歌も気に入ってるけど、もうちょっとしたら推敲し直すかもしれない。

 


そんでもって、意識してSOMLに寄せたのがこちらになります。天使の梯子をね、SOMLの二次創作短歌に詠み込みたかったんですよ。

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く 読む人のいない手紙は書き出しを埋めたきりまた紙くずになる 自惚れた悔悟だろうかもう一度会う約束をしてればなんて 真実は滝も知らない愚痴ひとつ漏らさず隠す人だったから 今一度話をしようカーテンの奥に隠したきみを見るため 朝焼けのかげに差しぐむ曇天の背なを天使の梯子が照らす

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く
読む人のいない手紙は書き出しを埋めたきりまた紙くずになる
自惚れた悔悟だろうかもう一度会う約束をしてればなんて
真実は滝も知らない愚痴ひとつ漏らさず隠す人だったから
今一度話をしようカーテンの奥に隠したきみを見るため
朝焼けのかげに差しぐむ曇天の背なを天使の梯子が照らす

以下、一から十まで自前の幻覚で構成されています。

年末年始に詠んだのもなんだけど、私は弔辞のことを死んだ人へ宛てた最後の手紙(当人が知ることはないとわかっていながらなお、届いてほしいと宛てる祈り)だと思っているらしいのがとても強く出ているなと思いました。ここで選ぶ語は弔辞のほうが絶対わかりやすいし情景も浮かぶしSOMLモチーフの二次創作短歌らしくもあるんだけど、わかってて譲りたくないのはつまりそういうことなんでしょう。

アメリカの緯度でクリスマス(冬至のすぐ後)で朝六時、日の出前だと思うんですよね。ほんとうに趣味の悪いことを言うんですけど、あの後逃げるように帰って一度眠って、いつも目覚めるより早い時間に電話で起こされてほしい。あの日の会話を知ってるのはトーマスとアルヴィンの二人だけだから、身よりのない彼の訃報は「一番仲が良かった」彼に伝えられてほしいなって。

3首目は純度百パーセントの私のヘキです。そんな場面はなかったけどトーマスにはそういう「もしあのとき」の可能性をいっぱい考えててほしい。

6首目がとても気に入ってるんですがしかし、かげ*2といい差しぐむ*3といい、これぱっと意味わかるのSH鳥居参拝周回クラスタ*4しかいないのでは?という疑念に駆られてもいます。口語体の歌に古語を差し込むものではない。

*1:Q.それ「バタフライ」だよね? A.はい

*2:古語で「光」のこと

*3:古語で「涙ぐむ」の意

*4:「しろいかげ」ってフレーズを聞き取った勢が即行で「光」の意味までたどり着いた

題詠みたんか '21年9月~12月

重力も三十一文字(みそひともじ)も飛び越えて師走蹴飛ばし白南風よ吹け
2021年12月10日『超自由詠』

土曜日に昇る朝日のようなひと眠る間に去ってしまって
2021年12月08日『比喩』

鶏肉を卵でとじるめんつゆが笑うぐらいに喧嘩した夜
2021年12月06日『他人丼』

盲目を知ってする恋1ヶ月ずれたバースデイテディーベア
2021年12月02日『盲』

ばきばきと世界を食らうオーロラはくじらも凍る北極点で
2021年12月01日『凍』

ひだまりで眠り小鳥とたわむれてそういうねこにわたしはなりたい
2021年11月29日『うたの日のねこ』

耳のあるロボットだけが覚えてるでたらめばかりの寝物語を
2021年11月26日『ロボット』

赤リンはマッチの箱に付いている火をつけられるだけの初恋
2021年11月25日『マッチ』

シワひとつないワイシャツと完璧なスリーピースと解けた靴紐
2021年11月24日『靴紐』

うつくしいいきものでした性別の垣根をこえて消費されゆく
2021年11月22日『美男/美女』

顔も知らぬ級友よりも親しげに返事をくれる馴染みのカラス
2021年11月19日『カラス』

踏まれても土にかえれぬイチョウ葉とよき夏の日を思い返して
2021年11月18日『黄葉』

さよならの記憶真冬の晴れ空とサンドイッチは今も苦手だ
2021年11月17日『忘』

五線譜の格子を抜けて泳ぐ子をピアノの声であやして夕べ
2021年11月15日『ピアノ』

家を買い子どもは二人休日はドライブ取られて今があります
2021年11月12日『普通』

振り返り振り返りするシェパードの騎士に守られ米寿の祖母だ
2021年11月11日『犬』

引き止める人もなく旅立つ船を見送る冬の蝶と並びて
2021年11月10日『自由詠』

五年前はじめましてをした店でさよならをする指輪はすてる
2021年11月08日『喫茶店

ジャケットの裏ポケットにしのばせたジッポ煙草を吸わない君が
2021年11月05日『スーツ』

口髭と見張ったまなこ柔らかな中身を守るためのよろいだ
2021年11月04日『サルバドール・ダリ

貧しさを罪と呼ぶのかおはじきのガラスを飴と渡す彼女を
2021年11月03日『貧』

ヤドカリをペットボトルに住まわせる青い鳥などいない世界で
2021年10月28日『ヤドカリ』

家となる大木もとめ飛ぶ鷹を見上げ自由と羨む人よ
2021年10月26日『鷹』

ボスだけが味方です缶コーヒーじゃないほうにも言いたいものだ
2021年10月21日『缶コーヒー』

チョコレートコスモスを嗅ぎ首かしげまた嗅いでいる妻と息子と
2021年10月20日『コスモス』

自然とは戦うものだ大カボチャくり抜きながら祖父独り言つ
2021年10月19日『自然』

寝かしつけ起こし着替えて送り出しハニーバターをトーストに塗る
2021年10月18日『バター』

我慢さえあなたのためと言われても黙って啜る渋いコーヒー
2021年10月17日『我慢』

ニンニクとシソと悩みと恨み言ぜんぶあわせて醤油につける
2021年10月15日『ニンニク』

パクチーが好きだった人ベランダのパクチーだけが知る顔がある
2021年10月14日『パクチー

逆上がりする才能は腕力としたいと願い続ける気持ち
2021年10月12日『才』

守りたい国も命も紙ぺらのひとつで届かない場所にいく
2021年10月11日『守』

自由とは誰にも頼れないことだ舞い降りてきたトンビが笑う
2021年10月10日『自由詠』

胃の奥で喉越しだけのノンアルが叶わぬ恋とぱちぱち笑う
2021年10月09日『炭酸』

缶詰のプルタブを引く気軽さで天の岩戸をノックする舌
2021年10月08日『パカッ』

今はもう彼だけが知る花のいろ無声映画のスターの声と
2021年10月07日『映』

小児科で二十分まだ泣きさけぶ赤児の声を聞き打つ注射
2021年10月06日『賛歌』

空の布団これじゃ三千世界など夢の夢さと烏が嗤う
2021年10月02日『烏』

寝る前にせがんだ絵本読み聞かす声さえ今は夢の向こうに
2021年10月01日『本』

愛情の形みたいだどうせすぐ乗れなくなると言われなかった
2021年09月30日『三輪車』

神は死んだ語りし人の言葉から神を見出す人のありける
2021年09月26日『ニーチェ

オレンジの香水ばかりおぼえてる髄まで焼けた骨の白さと
2021年09月25日『香水』

誰そ彼と知ることもなく公園のいつもの子らと隠れ鬼せり
2021年09月24日『夕方』

オリジナルレシピを作り振る舞った子どもは父となり飲む側へ
2021年09月22日『ドリンクバー』

捨てられるばかりでしたがカブちゃんのおうちとしての余生です、はい
2021年09月21日『ペットボトル』

推し事とうそぶきながらもういない人の眼鏡をゆっくり磨く
2021年09月19日『推』

十六夜が見頃と誉めた人を待つ夜は立待居待も過ぎて
2021年09月15日『月』

邪悪とは正義のことだ終わらない学級会で立たされている
2021年09月13日『邪』

覚えてる赤を求めて三千里イギリス産のりんごを煮込む
2021年09月11日『覚』

海わたり旅する蝶を秋雨が見下ろしている風の吹くまで
2021年09月09日『まで』

スイッチを切り替えてもう秋になるあの日デートに着た服を捨て
2021年09月07日『秋』

若者と呼ぶほど若いこともなくベテランと呼ぶほど長けていることもなく
2021年09月06日『若者』

おはようを言い交わすたび増す熱が相互作用であればいいのに
2021年09月04日『互』

給食で机動かすシーン見ておもしろいよと指差す息子
2021年09月01日『給』

二次創作詩歌連作2セット(ミュージカルJtR)

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左が短歌連作、右が都々逸5つの神戸節風です。

意図してではないんですが、なんか……なんかダニエルしか詠めなくて……。


連作5首
始まりはひとつの出会い手を取ればひらける道は幸福の夢
契約は命の価格罪を売り無垢を買います10万ポンド
取引はイーブンで成る金、秘密、告発、女、死体、快楽
引き金は一輪の薔薇午後九時は嘘と囮と絡繰舞台
銃声は女を穿ち左様なら只の男の名の鬼は失せ

 

どれも主体は2幕ダニエルなんですが、
グロリア、ダニエル、モンロー、アンダーソン、ジャックの主体に偽装できないかなと思った試みです。
掛詞的なダブルミーニングというより見た人の情報の多寡で違うものに見える歌に挑戦したかったんですが、詠み手本人が偽装先を半分忘れてたので要修練。

というか正確に経緯を述べると、
最初に出てきた1首がグロリアの最期だったので建前でもネタバレ避けしようと思ったらこうするしかなかった。グロリアが死んだから「じゃあな」になるのが好きで……。殺しをしながら思わず笑うまで行っておいて殺人が本当に手段でしかなかった*1のがダニエルの人間性と狂気だと思っているので……。
前の歌からひとつ拾ってつなげてくのをやりたくてこの順番にしたけど、2首目と3首目の順番は逆のがしっくりくるのではとも思っている。


神戸節(風)

無私で無欲の無垢なる彼が救い買いする無辜の民
手紙 初恋 夢見た未来 炎巻かれりゃ地獄行き
銀の刃を助けるためと花へ揮えば人殺し
金の代わりに魂分けて"彼"はお前の免罪符
銃と血の華 殺意は折れて握れないまま落ちた指

 

2幕モノは1幕と2幕からほぼ同数出したいこだわりがありリベンジ。消化酵素外的投与として歌詠みがちょうどいいことをおぼえたのもあり。
流れをやるなら連作より都々逸かなと思って……嘘です「俺はお前の免罪符」がやりたかった。
都々逸なので音重視、三四四三三四五が粋だって師匠が言ってた……(言ってない) でも久しぶりに詠むのできっちりはめようかと。
ところで3句目って意味伝わってます? 助ける相手と刃を向ける相手が違うので、ほんとは「助けるためにと」のが日本語としては通じやすいとは思う。
4句目もわかりにくいけどホンの語を使うほうにこだわってみたのであれでいいんです、語調も良いし。
主体はもうちょっと散らすつもりだったんですが、なんか詠んでるうちにダニエルだけになった……。1,3,4がぽんとベース出てきたので他の主体の入る余地がなくなった。

 

 

オチはないけど二次創作詩歌は楽しいからおすすめですよ。自分がどういう認識を持っているのか探していくにはとてもよいあそびだと思う。

*1:目的ではなく手段でしかありえなかったから、最初の動機だったグロリアの死が逃れえぬものになった瞬間にジャックが静かになり、彼女の死が確定すると共にダニエルの元から立ち去る

題詠みたんか'21.7月8月

題詠みサイトさんで詠んだ歌たち。

 

8月の食堂だけが知っている冷やし中華はもうやめました
2021年08月31日『夏の終わり』

晩酌の約束ついに果たせずにお盆休みに買う缶ビール
2021年08月30日『晩』

クララとて立ちも座りもしないまま空へ飛び立ちたい夜もある
2021年08月29日『クララ』

わいせつは犯罪ですのポスターに見てもらえない猥褻がいる
2021年08月28日『猥』

わたくしと言えといわれてワタクシと言う練習をする十二歳
2021年08月23日『私』

冷房は強めにかける共寝には27℃は高すぎるので
2021年08月21日『27℃の夜』

崩壊の予感見慣れぬズボンとか置かれたままのマグカップとか
2021年08月18日『崩』

行進はもう止まらない革命の笛につられて踊るねずみだ
2021年08月17日『進』

夕立を言い訳にして傘ごしに並んだ肩と重なる指と
2021年08月12日『夕立』

行き先もわからないキス更新もしてない免許だけが知ってる
2021年08月09日『免』

じぶじぶと火花も出さず膨らんだ線香花火のような恋情
2021年08月08日『花火』

喉をすべる炭酸水はそのうちにいいことあるさと無責任だ
2021年08月06日『炭酸』

高く高く伸びていく雲あおぞらの先には何もないとも知らず
2021年08月03日『入道雲

ゆっくりとこころをなくし幼な子と蝉に追われて夕暮れを待つ
2021年07月28日『忙』

六畳を漂う蜘蛛の人ひとり背負わせるには細すぎる糸
2021年07月27日『細』

汗をかく麦茶のグラスふたりぶん人が戻ってくるのを待って
2021年07月26日『汗』

さざ波が寄せては返す横浜の港の船の彼れに手を振る
2021年07月23日『浜』

くるくると渦巻いている線香の灰で魔法を書いた夏の日
2021年07月22日『蚊取線香』

鼻先にマスクつけられとっくりも取り上げられた陶器の狸
2021年07月16日『狸』

ただいまもおかえりもなく猫もなくセブンイレブンだけが待ってる
2021年07月15日『セブンイレブン

もう顔も覚えていない初恋が残る机のみよちゃんの文字
2021年07月13日『机』

大阪にあるものでしょう大勢で中に飛び込むんでしょ知らんけど
2021年07月11日『道頓堀』

溶けていく氷砂糖はひんやりと祖父母の家の畳の匂い
2021年07月09日『氷』

感情に付ける名前を探しつつ今日も「おはよう」「おはよう」を待つ
2021年07月08日『?』

チョコミント味と言われたコーヒーの無念を思い重ねた恋は
2021年07月07日『チョコミント

エビになれお前はエビと言い聞かせ鶏むね肉に衣を着せる
2021年07月06日『衣』

平和とは妥協のことだ半分に折られた腹でサブレが語る
2021年07月05日『和』

はじまりの合図食まれる指先は痛みもなくて従っている
2021年07月03日『痛』

虹色に縁の輝く水たまり魔法みたいと笑ってた頃
2021年07月02日『水たまり』

虹色に輝く雲だ戦争のなかでも上を向けと謳うは
2021年07月01日『虹』

観劇感想短歌企画(2回目)詠み歌

新規だったりちょっと変えたりしたのだけ取り出して置こうと思って。

 

ラブ・ネバー・ダイ
馬銜もなく鐙蹴り抜く行く先も見えぬされども負ければ地獄
※馬銜(はみ):ブレーキ兼ハンドルに必要 鐙(あぶみ):アクセル
星々の高み至った歌鳥を恋散る者が墜とす銃声 

 マタ・ハリ
地を這えど失くしはしない本物の愛のことばを西へゆくまで
長雨は打ち消していく戦場へ流れゆく血も最期の声も
またひとつ積もる神さえすくえない組んだ指からこぼれた命
折句「マタ・ハリ
 舞い踊るステージの裏とびかうは愛の言葉と嘘とスパイと
 誰そ彼と問う者もなく太陽の光が隠すマルガレータは
 華やかな衣装と化粧身を清め生まれ直して『マタ・ハリ』になる
 りんとなる音色踊りも鮮やかに捧げる神は闇の向こうに

スリル・ミー
星空に手は届かねど立ち昇る炎は夜を焼いてオレンジ
君が呼ぶためだけの名だ今はもうどこにもいない死んだ名前だ 

ストーリー・オブ・マイ・ライフ
電飾の星降る聖夜ともに行く人もなく待つ人は亡く

王家の紋章
血を吸って咲いた睡蓮目の碧はナイルの神秘映しかがやく

タージマハルの衛兵
飛ぶ羽も飛ぶ先もなく君もなく地べたで見上ぐジャングルの夢

森フォレ
祝福は呪いと成りて繰り返す継がせる父と手放す母と