うたをよむなり。

ねずみです。あちこちで詠んでる詩歌のたぐいをまとめようとおもいました。

「みずつき12」提出連作+セルフ推敲SOML連作

「水」をテーマに6首連作する短歌企画「みずつき」に参加しました。どの歌にも液体のモチーフを入れたつもり。

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く 遺言は川に沈んだ愚痴ひとつ言わずにゆるす人だったから 自惚れた悔悟だろうか酒を飲む約束をしていればだなんて 読む人のいない手紙は止めどきのないまま紙にインクが滲む 最後にと握った肌の感触も消毒液に上書きされた 朝焼けに泣き出す前の曇天の背なを天使の梯子が照らす

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く
遺言は川に沈んだ愚痴ひとつ言わずにゆるす人だったから
自惚れた悔悟だろうか酒を飲む約束をしていればだなんて
読む人のいない手紙は止めどきのないまま紙にインクが滲む
最後にと握った肌の感触も消毒液に上書きされた
朝焼けに泣き出す前の曇天の背なを天使の梯子が照らす

「水に流れて」

……ええと、6首目だけ説明足していい?

天使の梯子」、気象としては薄明光線と呼ばれる大気光象のひとつです。厚い雲の切れ間から斜めに差し込んだ光が大気中の細かな水滴で散乱する、チンダル現象によるもの……いや、言葉上の定義はいいか。

つまりね。天使の梯子が見られやすいのは
・厚い雲の層がある
・大気中に細かな水滴がたくさんある(雨の前後になりやすい)
・太陽が低い位置から差し込んでいる(朝方や夕方)
という空模様なのですね。

1首目で「涙もなしに」を出したので、最後は泣き出す前の空にしたら対比になるかなって思って。ちゃんと対比にするなら涙の見える情景が良しなんだけど、空に泣かれて雨になっちゃうと天使の梯子がかからないので……。
その情景を目にした主体が涙したかどうかはわからんけど、まあ前を向いてくれたらいいなって思いました。気持ちが前に向いた後の1首入れるのが構成としてはベターなのかもしれないけど、目に綺麗な景色でとじるのもいいかなって……そういうのが好みなんです。はい。


と、ここまでが表書きです。ここから「わたしはSOMLの連想で詠んだ歌を企画に提出しました」の札を首にかけます。

水と言えば死だよね! という着想で提出するおかげで昨年も今年もひとりテーマがド暗くなりました。民話と神話とSHで育ったので完全に「水=死と輪廻」の概念が形成されてしまっていて……。そしてSOMLのイメージが水なんですよね私ね……。ただしく言うと流れる川のイメージ*1なんだけど。

言葉の舌ざわりだけで詠むので連作だと主体が見えず詰まりがちなのが常なところ、困ったらトーマスのほう見ればよいのは大変編みやすかったです。その結果編みあがったのがこれ(👆)なのは、意識して演目からシチュを離したとはいえちょっとごめんと思わなくもない。特に2首目。すごい楽しかった。

連作の中でモストお気に入りは3首目です。自分は何かできたんじゃないか、時間を心を割いていれば違う道を選んでくれていたのではないか。遺された者の切実でかわいらしい傲慢だと思う。他の歌も気に入ってるけど、もうちょっとしたら推敲し直すかもしれない。

 


そんでもって、意識してSOMLに寄せたのがこちらになります。天使の梯子をね、SOMLの二次創作短歌に詠み込みたかったんですよ。

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く 読む人のいない手紙は書き出しを埋めたきりまた紙くずになる 自惚れた悔悟だろうかもう一度会う約束をしてればなんて 真実は滝も知らない愚痴ひとつ漏らさず隠す人だったから 今一度話をしようカーテンの奥に隠したきみを見るため 朝焼けのかげに差しぐむ曇天の背なを天使の梯子が照らす

一滴の涙もなしに葬式の知らせは午前六時に届く
読む人のいない手紙は書き出しを埋めたきりまた紙くずになる
自惚れた悔悟だろうかもう一度会う約束をしてればなんて
真実は滝も知らない愚痴ひとつ漏らさず隠す人だったから
今一度話をしようカーテンの奥に隠したきみを見るため
朝焼けのかげに差しぐむ曇天の背なを天使の梯子が照らす

以下、一から十まで自前の幻覚で構成されています。

年末年始に詠んだのもなんだけど、私は弔辞のことを死んだ人へ宛てた最後の手紙(当人が知ることはないとわかっていながらなお、届いてほしいと宛てる祈り)だと思っているらしいのがとても強く出ているなと思いました。ここで選ぶ語は弔辞のほうが絶対わかりやすいし情景も浮かぶしSOMLモチーフの二次創作短歌らしくもあるんだけど、わかってて譲りたくないのはつまりそういうことなんでしょう。

アメリカの緯度でクリスマス(冬至のすぐ後)で朝六時、日の出前だと思うんですよね。ほんとうに趣味の悪いことを言うんですけど、あの後逃げるように帰って一度眠って、いつも目覚めるより早い時間に電話で起こされてほしい。あの日の会話を知ってるのはトーマスとアルヴィンの二人だけだから、身よりのない彼の訃報は「一番仲が良かった」彼に伝えられてほしいなって。

3首目は純度百パーセントの私のヘキです。そんな場面はなかったけどトーマスにはそういう「もしあのとき」の可能性をいっぱい考えててほしい。

6首目がとても気に入ってるんですがしかし、かげ*2といい差しぐむ*3といい、これぱっと意味わかるのSH鳥居参拝周回クラスタ*4しかいないのでは?という疑念に駆られてもいます。口語体の歌に古語を差し込むものではない。

*1:Q.それ「バタフライ」だよね? A.はい

*2:古語で「光」のこと

*3:古語で「涙ぐむ」の意

*4:「しろいかげ」ってフレーズを聞き取った勢が即行で「光」の意味までたどり着いた

題詠みたんか '21年9月~12月

重力も三十一文字(みそひともじ)も飛び越えて師走蹴飛ばし白南風よ吹け
2021年12月10日『超自由詠』

土曜日に昇る朝日のようなひと眠る間に去ってしまって
2021年12月08日『比喩』

鶏肉を卵でとじるめんつゆが笑うぐらいに喧嘩した夜
2021年12月06日『他人丼』

盲目を知ってする恋1ヶ月ずれたバースデイテディーベア
2021年12月02日『盲』

ばきばきと世界を食らうオーロラはくじらも凍る北極点で
2021年12月01日『凍』

ひだまりで眠り小鳥とたわむれてそういうねこにわたしはなりたい
2021年11月29日『うたの日のねこ』

耳のあるロボットだけが覚えてるでたらめばかりの寝物語を
2021年11月26日『ロボット』

赤リンはマッチの箱に付いている火をつけられるだけの初恋
2021年11月25日『マッチ』

シワひとつないワイシャツと完璧なスリーピースと解けた靴紐
2021年11月24日『靴紐』

うつくしいいきものでした性別の垣根をこえて消費されゆく
2021年11月22日『美男/美女』

顔も知らぬ級友よりも親しげに返事をくれる馴染みのカラス
2021年11月19日『カラス』

踏まれても土にかえれぬイチョウ葉とよき夏の日を思い返して
2021年11月18日『黄葉』

さよならの記憶真冬の晴れ空とサンドイッチは今も苦手だ
2021年11月17日『忘』

五線譜の格子を抜けて泳ぐ子をピアノの声であやして夕べ
2021年11月15日『ピアノ』

家を買い子どもは二人休日はドライブ取られて今があります
2021年11月12日『普通』

振り返り振り返りするシェパードの騎士に守られ米寿の祖母だ
2021年11月11日『犬』

引き止める人もなく旅立つ船を見送る冬の蝶と並びて
2021年11月10日『自由詠』

五年前はじめましてをした店でさよならをする指輪はすてる
2021年11月08日『喫茶店

ジャケットの裏ポケットにしのばせたジッポ煙草を吸わない君が
2021年11月05日『スーツ』

口髭と見張ったまなこ柔らかな中身を守るためのよろいだ
2021年11月04日『サルバドール・ダリ

貧しさを罪と呼ぶのかおはじきのガラスを飴と渡す彼女を
2021年11月03日『貧』

ヤドカリをペットボトルに住まわせる青い鳥などいない世界で
2021年10月28日『ヤドカリ』

家となる大木もとめ飛ぶ鷹を見上げ自由と羨む人よ
2021年10月26日『鷹』

ボスだけが味方です缶コーヒーじゃないほうにも言いたいものだ
2021年10月21日『缶コーヒー』

チョコレートコスモスを嗅ぎ首かしげまた嗅いでいる妻と息子と
2021年10月20日『コスモス』

自然とは戦うものだ大カボチャくり抜きながら祖父独り言つ
2021年10月19日『自然』

寝かしつけ起こし着替えて送り出しハニーバターをトーストに塗る
2021年10月18日『バター』

我慢さえあなたのためと言われても黙って啜る渋いコーヒー
2021年10月17日『我慢』

ニンニクとシソと悩みと恨み言ぜんぶあわせて醤油につける
2021年10月15日『ニンニク』

パクチーが好きだった人ベランダのパクチーだけが知る顔がある
2021年10月14日『パクチー

逆上がりする才能は腕力としたいと願い続ける気持ち
2021年10月12日『才』

守りたい国も命も紙ぺらのひとつで届かない場所にいく
2021年10月11日『守』

自由とは誰にも頼れないことだ舞い降りてきたトンビが笑う
2021年10月10日『自由詠』

胃の奥で喉越しだけのノンアルが叶わぬ恋とぱちぱち笑う
2021年10月09日『炭酸』

缶詰のプルタブを引く気軽さで天の岩戸をノックする舌
2021年10月08日『パカッ』

今はもう彼だけが知る花のいろ無声映画のスターの声と
2021年10月07日『映』

小児科で二十分まだ泣きさけぶ赤児の声を聞き打つ注射
2021年10月06日『賛歌』

空の布団これじゃ三千世界など夢の夢さと烏が嗤う
2021年10月02日『烏』

寝る前にせがんだ絵本読み聞かす声さえ今は夢の向こうに
2021年10月01日『本』

愛情の形みたいだどうせすぐ乗れなくなると言われなかった
2021年09月30日『三輪車』

神は死んだ語りし人の言葉から神を見出す人のありける
2021年09月26日『ニーチェ

オレンジの香水ばかりおぼえてる髄まで焼けた骨の白さと
2021年09月25日『香水』

誰そ彼と知ることもなく公園のいつもの子らと隠れ鬼せり
2021年09月24日『夕方』

オリジナルレシピを作り振る舞った子どもは父となり飲む側へ
2021年09月22日『ドリンクバー』

捨てられるばかりでしたがカブちゃんのおうちとしての余生です、はい
2021年09月21日『ペットボトル』

推し事とうそぶきながらもういない人の眼鏡をゆっくり磨く
2021年09月19日『推』

十六夜が見頃と誉めた人を待つ夜は立待居待も過ぎて
2021年09月15日『月』

邪悪とは正義のことだ終わらない学級会で立たされている
2021年09月13日『邪』

覚えてる赤を求めて三千里イギリス産のりんごを煮込む
2021年09月11日『覚』

海わたり旅する蝶を秋雨が見下ろしている風の吹くまで
2021年09月09日『まで』

スイッチを切り替えてもう秋になるあの日デートに着た服を捨て
2021年09月07日『秋』

若者と呼ぶほど若いこともなくベテランと呼ぶほど長けていることもなく
2021年09月06日『若者』

おはようを言い交わすたび増す熱が相互作用であればいいのに
2021年09月04日『互』

給食で机動かすシーン見ておもしろいよと指差す息子
2021年09月01日『給』

二次創作詩歌連作2セット(ミュージカルJtR)

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左が短歌連作、右が都々逸5つの神戸節風です。

意図してではないんですが、なんか……なんかダニエルしか詠めなくて……。


連作5首
始まりはひとつの出会い手を取ればひらける道は幸福の夢
契約は命の価格罪を売り無垢を買います10万ポンド
取引はイーブンで成る金、秘密、告発、女、死体、快楽
引き金は一輪の薔薇午後九時は嘘と囮と絡繰舞台
銃声は女を穿ち左様なら只の男の名の鬼は失せ

 

どれも主体は2幕ダニエルなんですが、
グロリア、ダニエル、モンロー、アンダーソン、ジャックの主体に偽装できないかなと思った試みです。
掛詞的なダブルミーニングというより見た人の情報の多寡で違うものに見える歌に挑戦したかったんですが、詠み手本人が偽装先を半分忘れてたので要修練。

というか正確に経緯を述べると、
最初に出てきた1首がグロリアの最期だったので建前でもネタバレ避けしようと思ったらこうするしかなかった。グロリアが死んだから「じゃあな」になるのが好きで……。殺しをしながら思わず笑うまで行っておいて殺人が本当に手段でしかなかった*1のがダニエルの人間性と狂気だと思っているので……。
前の歌からひとつ拾ってつなげてくのをやりたくてこの順番にしたけど、2首目と3首目の順番は逆のがしっくりくるのではとも思っている。


神戸節(風)

無私で無欲の無垢なる彼が救い買いする無辜の民
手紙 初恋 夢見た未来 炎巻かれりゃ地獄行き
銀の刃を助けるためと花へ揮えば人殺し
金の代わりに魂分けて"彼"はお前の免罪符
銃と血の華 殺意は折れて握れないまま落ちた指

 

2幕モノは1幕と2幕からほぼ同数出したいこだわりがありリベンジ。消化酵素外的投与として歌詠みがちょうどいいことをおぼえたのもあり。
流れをやるなら連作より都々逸かなと思って……嘘です「俺はお前の免罪符」がやりたかった。
都々逸なので音重視、三四四三三四五が粋だって師匠が言ってた……(言ってない) でも久しぶりに詠むのできっちりはめようかと。
ところで3句目って意味伝わってます? 助ける相手と刃を向ける相手が違うので、ほんとは「助けるためにと」のが日本語としては通じやすいとは思う。
4句目もわかりにくいけどホンの語を使うほうにこだわってみたのであれでいいんです、語調も良いし。
主体はもうちょっと散らすつもりだったんですが、なんか詠んでるうちにダニエルだけになった……。1,3,4がぽんとベース出てきたので他の主体の入る余地がなくなった。

 

 

オチはないけど二次創作詩歌は楽しいからおすすめですよ。自分がどういう認識を持っているのか探していくにはとてもよいあそびだと思う。

*1:目的ではなく手段でしかありえなかったから、最初の動機だったグロリアの死が逃れえぬものになった瞬間にジャックが静かになり、彼女の死が確定すると共にダニエルの元から立ち去る

題詠みたんか'21.7月8月

題詠みサイトさんで詠んだ歌たち。

 

8月の食堂だけが知っている冷やし中華はもうやめました
2021年08月31日『夏の終わり』

晩酌の約束ついに果たせずにお盆休みに買う缶ビール
2021年08月30日『晩』

クララとて立ちも座りもしないまま空へ飛び立ちたい夜もある
2021年08月29日『クララ』

わいせつは犯罪ですのポスターに見てもらえない猥褻がいる
2021年08月28日『猥』

わたくしと言えといわれてワタクシと言う練習をする十二歳
2021年08月23日『私』

冷房は強めにかける共寝には27℃は高すぎるので
2021年08月21日『27℃の夜』

崩壊の予感見慣れぬズボンとか置かれたままのマグカップとか
2021年08月18日『崩』

行進はもう止まらない革命の笛につられて踊るねずみだ
2021年08月17日『進』

夕立を言い訳にして傘ごしに並んだ肩と重なる指と
2021年08月12日『夕立』

行き先もわからないキス更新もしてない免許だけが知ってる
2021年08月09日『免』

じぶじぶと火花も出さず膨らんだ線香花火のような恋情
2021年08月08日『花火』

喉をすべる炭酸水はそのうちにいいことあるさと無責任だ
2021年08月06日『炭酸』

高く高く伸びていく雲あおぞらの先には何もないとも知らず
2021年08月03日『入道雲

ゆっくりとこころをなくし幼な子と蝉に追われて夕暮れを待つ
2021年07月28日『忙』

六畳を漂う蜘蛛の人ひとり背負わせるには細すぎる糸
2021年07月27日『細』

汗をかく麦茶のグラスふたりぶん人が戻ってくるのを待って
2021年07月26日『汗』

さざ波が寄せては返す横浜の港の船の彼れに手を振る
2021年07月23日『浜』

くるくると渦巻いている線香の灰で魔法を書いた夏の日
2021年07月22日『蚊取線香』

鼻先にマスクつけられとっくりも取り上げられた陶器の狸
2021年07月16日『狸』

ただいまもおかえりもなく猫もなくセブンイレブンだけが待ってる
2021年07月15日『セブンイレブン

もう顔も覚えていない初恋が残る机のみよちゃんの文字
2021年07月13日『机』

大阪にあるものでしょう大勢で中に飛び込むんでしょ知らんけど
2021年07月11日『道頓堀』

溶けていく氷砂糖はひんやりと祖父母の家の畳の匂い
2021年07月09日『氷』

感情に付ける名前を探しつつ今日も「おはよう」「おはよう」を待つ
2021年07月08日『?』

チョコミント味と言われたコーヒーの無念を思い重ねた恋は
2021年07月07日『チョコミント

エビになれお前はエビと言い聞かせ鶏むね肉に衣を着せる
2021年07月06日『衣』

平和とは妥協のことだ半分に折られた腹でサブレが語る
2021年07月05日『和』

はじまりの合図食まれる指先は痛みもなくて従っている
2021年07月03日『痛』

虹色に縁の輝く水たまり魔法みたいと笑ってた頃
2021年07月02日『水たまり』

虹色に輝く雲だ戦争のなかでも上を向けと謳うは
2021年07月01日『虹』

観劇感想短歌企画(2回目)詠み歌

新規だったりちょっと変えたりしたのだけ取り出して置こうと思って。

 

ラブ・ネバー・ダイ
馬銜もなく鐙蹴り抜く行く先も見えぬされども負ければ地獄
※馬銜(はみ):ブレーキ兼ハンドルに必要 鐙(あぶみ):アクセル
星々の高み至った歌鳥を恋散る者が墜とす銃声 

 マタ・ハリ
地を這えど失くしはしない本物の愛のことばを西へゆくまで
長雨は打ち消していく戦場へ流れゆく血も最期の声も
またひとつ積もる神さえすくえない組んだ指からこぼれた命
折句「マタ・ハリ
 舞い踊るステージの裏とびかうは愛の言葉と嘘とスパイと
 誰そ彼と問う者もなく太陽の光が隠すマルガレータは
 華やかな衣装と化粧身を清め生まれ直して『マタ・ハリ』になる
 りんとなる音色踊りも鮮やかに捧げる神は闇の向こうに

スリル・ミー
星空に手は届かねど立ち昇る炎は夜を焼いてオレンジ
君が呼ぶためだけの名だ今はもうどこにもいない死んだ名前だ 

ストーリー・オブ・マイ・ライフ
電飾の星降る聖夜ともに行く人もなく待つ人は亡く

王家の紋章
血を吸って咲いた睡蓮目の碧はナイルの神秘映しかがやく

タージマハルの衛兵
飛ぶ羽も飛ぶ先もなく君もなく地べたで見上ぐジャングルの夢

森フォレ
祝福は呪いと成りて繰り返す継がせる父と手放す母と

題詠みたんか'21.6月

題詠みサイトさんで詠んだ歌たち。

 

出会いから間違っていた取り皿に置いていかれたゴーヤとふたり
2021年06月29日『苦』

カチューシャとシーツの衣装マタハリのごと舞い躍るあどけない脚
2021年06月28日『舞』

五月雨の飛行機雲が英雄になれと言われた者らの墓標
2021年06月24日『飛』

みいちゃんねひよこだったの そうなのと言って連絡帳に書き込む
2021年06月23日『報』

コーヒーのアイデンティティを殺されたバニラキャラメルカフェラテと僕
2021年06月22日『バニラ』

真夜中のカフェオレ寝室の寝息スキムミルクでごまかしている
2021年06月21日『罪』

ラジオだけ響く夜半だ心臓の音がないこと隠して共寝
2021年06月19日『ラジオ』

生ぬるいビル風あびる一年中嵐の前ぶれみたいな街だ
2021年06月18日『ビル』

愛情と塩ひとつまみ入れたなら鬱憤込めて捏ねて叩いて
2021年06月17日『ハンバーグ』

一銭を見たこともない僕たちのドラえもんにも会えない世界
2021年06月16日『銭』

空席にちょこんと座るタンポポの綿毛をさらいコートに乗せる
2021年06月14日『拐』

鳥籠の開いた扉を見もせずに手からざくろを啄ばんでいる
2021年06月10日『自由詠』

おっくんおー、おっくんおーとなく稚児の語源に気づく土曜午後四時
2021年06月09日『ロックンロール』

雲ならばよかった君の理想にもなれず泣くなどなかったろうに
2021年06月08日『雲』

カーテンは開けたまま出るただいまを言えば西日が迎えてくれる
2021年06月07日『アパート』

折れそうと言いつつうさぎ抱く人が背中に添える手のやわらかさ
2021年06月06日『動物』

指切りは果たせずにいるちっぽけな骨を選んでつまむ鉄箸
2021年06月04日『切』

息を吸う裁定は出た夕暮れに最も映えるさよならの音
2021年06月03日『裁』

しとしとと濡れる紫陽花待ち人の来るまで愚痴につきあっている
2021年06月02日『紫陽花』

涙さえ覚えていない午前二時重なり合った唇の味
2021年06月01日『涙』

「みずつき」提出連作

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連作企画に参加したいしたいと思いつつ、イメージが膨らまず挫折すること数回。
ちょっとずっこくしてやっと参加しました。
短歌を言葉で補足するの、勝ちか負けかで言えば負けだと思うけど語りたいので語ります。そして出しておいて何なんですけどセルフアレンジしたのでそっちも見て。

 

眠れずに川を見に行く黒々とまなこのような水面に語る

情景にすごく既視感があって、前にも同じもので詠んだのかと思った(なかった。)欄干を両手で掴んで水面を覗き込んでいる情景、たぶん好きなんだろうな私……。これは私の趣味なんですけど、手を伸ばせば掬えたかもしれない死んだ人を想うのは孤独な夜が似合う。

滝のなか投げた木の枝言い出せぬ願いと共に沈め底まで

>突然の滝<
この脈略のなさ、言い訳ができない。
それぞれの歌に水でできたものをひとつ入れるマイ縛りで詠んでいて、川よりやさしくなさそうなのを持ってきたかった。初めから沈めるつもりなら石を投げるだろうし、主体は本当は沈めたくなかったんじゃないかな。

白雪に寝転び腕を動かせば地面に残る天使のかたち

>突然の雪< この脈略の(ry)
いやこっちは言い訳はあるんですよ。時間軸が飛んだのを伝えたくて、一回川から離れたかったの。2首目でいきなり飛ぶのもかなと思ったんだけど、繋がりとしては逆のほうが自然だった気は正直しています。
何かいっこ、きれいで楽し気なものだけでできたのを入れたかったんですよね……。絶望が映えるからもとい語り部にとって大切な思い出だったものを見せたかったので。陰りのない情景だけど主体は下を向いているのが個人的な拘り。

肺に満ち泡立つ水は最期までもがき苦しみ沈んだ証

言葉選びは悩んだけど絶対に入れるつもりだった。
あのね、溺死した人間は肺のなかに溜まった水が泡立っていることが多いらしいんですよ。吸った息と水が混ざって。あとは下句の通りです。落ちてからはあっという間な感じを出したくて語調にそこそここだわりました。もはや物言わぬ肉体に残った苦しみの証、よくないですか。
沈む→溺れるとか願いを諦めたひとが命さえ落とすとか、2首目の後ろに来たほうが流れがすっと通った気はしています。白雪の「かたち」とこの歌の「あかし」で音を合わせたくてこの順番で通しました。次の歌に繋げるのに気分をぐっと下げたくて強い言葉叩き込んだけど、苦しみはもちっと具体的な言葉にできたらよかったね。

涙さえ川となるのだ尽きもせぬかなしみがなぜ海とならずや

この連作は「かなしみがなぜ海とならずや」から膨らませて組みました。それもあっていちばん気に入りだったりします。言いたいことが言えたのもあり。
3句目を「あふれ出る」とちょっと悩んだけど、湧き水っぽいなと思ってこちらに。なんかこう、内からわき出るより雨が止まないような受動的な感じにしたかったんですよね……。
時間軸は1首目と同じなのが伝わってたらいいなあって思います。ひとけのない夜の川べりで、落ちる涙が音もなく水面に吸い込まれていくような情景イメージ。

海をゆく蝶を見送る羽ばたきよどうか春まで届けと祈る

蝶は(死んだ)魂や再生の象徴だといいますので。魂だけになって、海を越えて暖かなところまで飛んで行ってくれたらいいよね。青空にひらひら飛んでいく透明な翅の蝶を見上げる情景、わりとかなり気に入っています。
アサギマダラという海を渡る蝶がいるんですよ。春と秋の2回わたりをするんですけど、彼らは鳥類とは違い渡った先で卵を産んだあとは死んでしまう。だからわたりをする蝶は皆、知らない土地に向かって飛んでいる。
あとね、3首目と対比をさせたかった。白雪、地面、はねを持つもの。「雪が溶けたら春になる」の話が好きで、そのイメージを借りました。*1いちおう1首目とも揃えているつもり。

 

○開き直った 観劇感想短歌アレンジ

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完全に二次*2に寄せるならこんな感じかなあの歌たち。加えて、時間置いたら気になってきた部分をちょこちょこ変えました。
白雪、いいじゃん真っ白で翳りのない思い出があってもと思ってたんですが、やっぱり浮くんですよね……。ファンアートと言い切るなら人物の説明がいらないからいっそ抜くかと思って。願いを沈め、思い出は奪われ、己も沈んだって線が(私のなかで)繋がったのではっぴー。
4首目も客観的なわかりやすさを放って見たいものを見に行きました。わかりやすくするなら変えるべきは読み解きに知識がいる上句だろうとは思う。でも検死がいいなって……。
もう家族のいないアルヴィンの検死結果を知らされるのはトーマスかなと思いまして。何もかもに取り返しのつかなくなった後、せめて苦しまない最期であってほしいという想いさえ打ち砕かれるの、いいなって思ったんだ。すみません趣味です。
言うて一般人がご遺体の解剖に立ち会えるわけもなく、情景は説明を受けた主体の空想です。(という妄想です。)まっすぐ切り開かれた喉から泡が弾ける幽かな音が聞こえる光景。
6首目はせっかくだから風と仲良くなってもらおうと思いました。

*1:理科のテストで書かれたら「その発想は大好きです!!」って書き添えて×にするけど。科学の枠で考える訓練だから……

*2:SoMLの視覚イメージに嗜好と幻覚を限界まで突っ込んだ